あの「落日荘」へ |
午後半休を頂いて、設計仲間と一緒に、あの「落日荘」へ訪問する機会に恵まれました。
テラスに椅子を出して頂き、気持ち良い秋晴れの中、岩崎さんのお話を伺いました。ご自身のこと、この土地に辿り着いた経緯など、沢山のお話しを聞かせて頂きました。基本計画の際には、敷地から真西の位置にある足尾山の頂上へ向かう緯線を軸線としたそうです。
緯線を軸線にするというシンプルな所作ですが、地球の座標軸である緯線を基準にすることで、自分の位置を明確にし、世界との繋がりを意識させてくれる素晴らしい手法だと思いました。都市計画をご経験され、様々な国に滞在された岩崎さんだからこそ辿り着ける考え方なのだと思います。
テラスでのお話にあとは、岩崎さんに建物内外をくまなく解説、ご案内いただきました。
セルフビルドで8年間かけて作られた落日荘には、ところどころに「時間の蓄積」を見てとることができます。構造から、小さな格子に至るまで、岩崎さんご夫婦の世界観が連続的に広がっていて、包まれるような感覚がありました。
現在の建築費に占める人件費の割合は、非常に大きく、人件費(手間)は、いわば、高価な材料であり、手間を減らすため、既製品や新建材が採用される場面が少なくありません。しかしながら、セルフビルドという手法においては、手間の時間の概念が変わります。手間を惜しまないということは、人件費が安かった時代の建築の作り方であり、現代では得難い価値を獲得しているのだと思いました。
建物ツアーの後、岩崎さんに幾つか質問をさせて頂きました。まず、工事開始当初から、8年の歳月が掛かると思っていらっしゃったのか、工事中に検討や変更することがあったのか、とお聞きしました。
岩崎さんは、当初は、もう少し短い工期を想定されていたようですが、着工前に細かなところまで作図されていたそうで、工事中の変更はほとんどなかったそうです。もちろん、工事を進めながら考える箇所も少し残しながら。
続いて、構造、工法、ディテールなどで、影響を受けた国や文化があったのか、をお聞きすると、カンボジアの影響を受けられているとのことでした。また、格子状の意匠がたくさん見受けられましたが、これ自体はカンボジアの影響というよりは、シンメトリーな空間構成との相性の良い、正方形の格子が登場してきているようでした。
すっかり長居してしまい、軸線からだいぶ、南寄りに沈む夕日に後ろ髪を引かれながら、西日って、こんなに美しかったんだと思い出すのでした。岩崎さん、この度はありがとうございました。(Sk)